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広島高等裁判所 昭和26年(う)678号 判決

弁護人Mの控訴趣意第一点(一)及弁護人Iの控訴趣意第二点について。

弁護人は刑法第九十六条の三第二項の談合罪は入札指定者が自らあらかじめ一定の者を工事落札者とする旨の意思表示をすることにより成立するものであるから入札指定者でない被告人は談合罪の主体となり得ない旨主張するが身分のない者と雖も身分により構成すべき犯罪に加工するときは共犯となること刑法第六十五条第一項の定めるところであり原判決判示によれば被告人は入札指定者である岡村繁太郎等と共謀の上公正なる価格を害し不正なる利益を得る目的を以て判示中学校建築工事につきあらかじめ明楽工業株式会社を工事落札者と定め他の入札指定者は落札しない様に申合をしたというのであるから被告人の所為が刑法第六十五条第一項により同法第九十六条の三第二項の談合罪に該当すること明らかである。従つて被告人に対し談合罪の責任を問うた原判決は正当であつて何等事実誤認の違法はない。論旨は理由がない。

弁護人Mの控訴趣意第一点(二)及弁護人Iの控訴趣意第一点について。

弁護人は刑法第九十六条の三第二項の談合罪は入札指定者全員があらかじめ工事落札者を協定することによつて成立するのであつて入札指定者のうち右協定に参加しないものがあるときは事実上工事落札者を協定することは不可能であるから談合罪は成立しないしかるに本件においては入札指定者のうち協定に加はらなかつた者があるから談合罪は成立しない旨主張するからこの点について考へるに談合というのは入札指定者が互に通謀して或る特定の入札指定者をして工事落札者たらしめるため他の者は一定の価格以上の入札をしないことを協定することを言ひその性質入札における自由競争の実を失はしめるものをいうのであるから入札指定者の全員の間において右の如き協定がなされるのを通常とするけれども入札指定者のうち一部の者が加はらなかつたとしても事実上有効に自由競争の実を失はしめる協定をなし得るが如き場合にはかならずしも入札指定者の全員が協定に加はらなくても談合罪の成立あるものと解するを相当とする本件について見るに原判決判示日時判示金子旅館に会合し判示中学校建築工事につき工事落札者を協定したものは全入札指定者二十一名のうち岡村繁太郎外十六、七名であつたこと弁護人指摘のとおりであるが本件記録に徴するときは右会合に参加しなかつた四、五名のものは競争入札につき関心の薄い者か或ひは殆んど入札を断念したとも思はれるものであつて真に競争入札の意思のあつた者は全部会合に参加していることが認められるから(この事は右会合に参加した者において落札者と協定した明楽工業株式会社が実際に工事落札者となつた事実によつても明らかである)右会合に参加した者の間においてあらかじめ工事落札者を協定するときは入札指定者全員の間において協定したのと何等差異がなく事実上有効に自由競争の実を失はしめる協定をなし得るものと認められるから入札指定者のうち一部の者が協定に加はらなかつたとしても談合罪の成立に影響なきものといはねばならない。果してそうだとすると判示金子旅館に会合した者は入札指定者二十一名のうち岡村繁太郎外十六、七名であるのに拘らず原判決が入札指定者岡村繁太郎外二十名が判示金子旅館に会合した旨判示認定したのは事実誤認の違法を犯かしたものといはねばならないがいずれに認定しても談合罪の成立あること前示説明のとおりであるから右の違法は判決に影響なきこと明らかである。従つて弁護人の所論は帰するところ理由がない。

弁護人Mの控訴趣意第二点について。

一、弁護人は刑法第九十六条の三第二項の談合罪は公正なる価格を害することを知つてあらかじめ工事落札者を協定するときに初めて成立するのであるしかるに本件において右の公正なる価格がいくばくであるかこれを認めるに足る証拠がないのみならず被告人が右の価格を知りこれを害する意思で落札者の協定をしたということについてもこれを認めるに足る証拠がない。従つて本件は談合罪を構成しないと主張するからこの点について考へる。思うに刑法第九十六条の三第二項にいう公正なる価格というのは自由競争により形成せらるべき落札価格をいうものと解すべきであるから右価格を害する目的で談合したときに同項の談合罪が成立するものといはねばならない。そこでまず本件における談合の方法を見るに原判決判示によると被告人は岡村繁太郎外十六、七名の入札指定者と共謀の上まず親札の金額を協定して金三百六十万円と定め所謂せり出しの方法により談合金につき入札しその入札価格中最高の談合金六十万円の入札をした明楽工業株式会社を工事の落札者と定め他の者は親札の金額三百六十万円より高く入札して工事を落札しない様に申合せて談合したというのである。ところでかかる方法によるときは工事の落札価格となる親札の価格は談合金を包含する関係上自由競争により形成せらるべき落札価格より高価であること極めて明らかであるからかかる価格を落札価格と協定すること自体公正なる価格を害するものであるといはねばならない。従つて本件の如き方法により談合した被告人に公正なる価格を害する目的のあつたことは極めて明瞭である。弁護人は公正なる価格がいくばくであるかを被告人が知つていたという証拠がないと主張するが被告人にして自由競争により形成せらるべき価格を害するものであることを知つていた以上その価格が計数上いくばくであるかを正確に知ることは何等必要ではない。従つて原判決が被告人に公正なる価格を害する目的があつた旨判示認定したのは相当であつて何等事実誤認の違法はない。論旨は理由がない。

二、次に弁護人は被告人には刑法第九十六条の三第二項所定の不正の利益を得る目的はなかつたから被告人の所為は何等談合罪を構成しない旨主張するが被告人は原判決判示の如く談合金を六十万円と定め談合したものであつて被告人に右談合金につき分配をうけんとする意思のあつたこと原判決挙示の証拠により認めうるから原判決が被告人に不正なる利益を得る目的のあつた旨判示認定したのは相当であつて何等事実の誤認はない弁護人は実際に被告人は談合金の分配を受けていない旨主張するが被告人に右の目的のあつた以上談合金が現実に分配されたか否かは談合罪の成立に影響のないものと解すべきであるから被告人が現実に談合金の分配を受けなかつたとしてもこれがために被告人に談合罪の成立なしとなすを得ない。論旨は理由がない。

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